その日夜遅く恋次が一護の部屋を訪れると、煌々と明りが灯っていた。


カーミィライト (携帯用)


窓とカーテンを通り抜けて部屋の中を窺ってみれば一護の姿はなく、学習机のスタンドが点いたままその手前に開かれた教科書が置いてある。一護の霊圧は家の中に感じ取れるから、偶然席を外した時だったのだろう。
恋次は何の遠慮もすることなく上がり込み、ベッドの上に陣取った。
間を置かず部屋のドアが開く。
「 、恋次 」
「よ。邪魔してるぜ」
階下からだろう、戻って来た一護の手には500mlのペットボトル。
「 お ・ぅ 」
学習机にそれを置いて、すぐ脇の教科書と・ベッドの上の死神をちらっと見遣る。
その視線が普段と違うのに 恋次はなんとなく居心地の悪さを覚えて、
「……なんだよ、」
でも“来ちゃマズかったか”とは言わない。
妙な間があった後、一護は
「いや…なんもねぇよ」
とだけ言って恋次の隣ではなく、学習机の椅子の方に腰を下ろした。ペットボトルを開栓して一口飲み込み、残りを恋次に投げて寄越す。
「一護?」
ペットボトルを投げて一護は、机に向き直っていて。頭越しに
「悪リ、恋次。あと…2ページ…だから…」
すぐ終わるから少し待っててくれというニュアンスを伝えながら、意識は既に教科書に向かっているらしい。
そんな一護の態度に恋次は少しムカついて、何だテメー俺が来てんのに・と言ってやろうかと思ったけど、自分と反対の方を向いた一護の背中が 話し掛けるな・煩くするな と口を開けない空気を張っていて渋々諦める。飲む気もないペットボトルを持て余し気味に両手で転がしながら、恋次は一護の後姿を見る。
電気スタンドに照らされて、いつもより より明るい蒲公英色の前髪と、彩度を落とした鬼百合色の後ろ髪。教科書の上の、何やら赤い板のような紙のようなものを見つめながら、時折顎が動き呟く声が聞こえる。
じっと見ていても恋次には何をやっているのかさっぱりだけれど。
こっちを向かない背中は恋次を拒絶しているのではないから。
一護の姿をこの目に見て、一護の霊圧を感じて、居心地の良くない静寂も緩くなってくる。

何分ぐらい経っただろうそれでもまだ10分かそのぐらいで、そろそろ日付をまたぐ頃。
「っあーー駄目だ全然集中できねーー」
まどろんできた静寂を破ったのは一護の声。
バタンと勢い良く教科書を閉じる音が聞こえてパチンと机の電気が消される。と、途端に部屋の空気はいつもの雰囲気に戻って。
恋次はやっと口をひらけた。
「?もうなんか終わったのか?」
ドアの側まで行って部屋の電気を消す一護の背中に向かって、気の抜けた声を掛けると
「終わってねーし!つーかてめーがじーっと見てっから集中できねーんだろー。明日小テストだっつーのに」
首をコキコキ鳴らしながら戻って来て一護は、ドサッと恋次の横に寝転がる。照明を全部消してしまった部屋は真っ暗で、ちょっと目算を誤った投げ出した一護の右手が恋次の髪を掠った。
「なんだよてめー、俺のせいかよ!」
せっかく来たのにほっとかれて、しかも文句を付けられては当然カチンと来るだろう。持たされていた中身の減っていないペットボトルで小突いてやろうと思ったら、僅差で一護が身体を動かしたらしくてぼふっ ・と虚しく、水の重みは布団に吸い込まれてしまった。パチッと小さな音がして、ベッドに黄色い明りが灯る。ベッドスタンドを点けるために身体を捻ったおかげで、一護はペットボトルの攻撃をかわせたらしい。
「今日は随分遅いじゃねーか・恋次」
身体を戻して寝転がったまま聞けば
「や、ちょっと時間が空いたからよ…」
空いたにしては微妙すぎる時間帯だと言ったあとで気付いて恋次は、少し慌てて目を逸らす。
「明日休み?」
「!……おぅ。まぁ・な」
一護が明日も学校なのは知っている。知っているから、一晩喋り明かすとはいかないけれどちょっと顔を見て、他愛の無い話をして、翌朝一護が学校に行く時に自分も尸魂界に戻れば良いかな・なんて考えて来てたから。一護が何かタイミングの悪そうな顔を見せた時、本当に凄くがっかりして、でも負担になる気は無いから自分もほんのわずかな空き時間なんだと言ってやったのだけど。
ずっとこっちを見なかったくせに、感付かれていたらしい。
「じゃーさ、俺帰って来るまで待っててくれよ」
「は?」
今まで言われた事の無いセリフに恋次は驚いて逸らした目を引き戻す。
「一日空いてるってことだろ?どーせ義骸入んないならガッコ来ててもいーし。見えんの石田とチャドと井上ぐらいだしさー」
仰向けからごろんと向きを変えて上目遣いで恋次を見上げる。
「や、別に……そんならお前が帰ってくる頃にまた来るし」
「……!」

呟く恋次の左頬を左指の背で緩く撫でその手で頭を引き寄せ、一護は恋次の重心を崩させる。傾ぐ身体を逆らわせる事なく引力に任せて、一護の隣に頭を落とす。
「なんだよ」
文句だけは忘れずに。
ちいさな山吹色の明りに灯された、口調とは反対に緩やかな恋次の視線に口元を緩めて引き倒した時に添えてたままの左手をその首筋の刺青まで滑らせる。指先に感じる拍動の音。
「ちょーカワイイコト言ってんじゃね?テメー」
「はぁっ!?」
頚部に回した左手を引いて、額が触れ合う手前まで。近過ぎて、視力が追いつく限界。
「俺の事、ずっと見てるしさ。言ってみてもキョドって否定・とかしねーし」
「………!!」
「俺に合わせてこっちとそっちの往復なんて面倒なこと・するっつーし」
「っそ、それは・だってょ…」
井上達とかに会いに来てるわけじゃねーから。
口篭もる恋次に一護は軽い目眩を感じた気がした。
「あーもー、どーしてくれんだテメー?」
「ぁあ??」
「明日小テストだって言っただろ。俺こんな髪だから教師から良く思われてねーんだよ。成績だけが評価対象なのによー」
テスト勉強が終わらなかった事を至近距離で蒸し返すと、案の定恋次はムッとした顔を見せて
「だからなんだよ。勝手に気ィ散らしてたのはてめーだろぅが!」
でも・
「ほんとだよ。てめーが居ちゃ、全然集中できねー」
視力の限界はもう、とっくに超えている。
「てめー以外の事にな」
「!…馬鹿かテメー…」
判別出来ないはずの一護の目元が、ふわっと笑ったのがわかった。
ベッドスタンドの明りに照らされて、オレンジの髪がキラキラと光を煌めかす。
眩しさに恋次は、目を伏せ。
「…恋次」
「ぉぅ……っ・」
まるで、待つようなその様に、一護はそう思うまま、口唇を触れ。
恋次の頚部に触れていた手はいつの間にか強くその掌に想いを篭め、
倒れ込んだ時に投げ出されたままになっていた恋次の腕はいつの間にか一護の背へ。
「…っちご、」
「んー?」
緩く温かい腕の中。呼ばれた声に応えてみたら、
「明日帰ってくんの何時なんだ」
そんな台詞で、
「えーと…五時間目だから…二時半ぐらい?」
本当に二往復するつもりなのかとまじまじと見つめると、恋次の口角がニヤリと上がる。

「わかった。待ってろよテメー」

喧嘩腰にもきこえる言葉に、一護は吹き出して

「いつでも待ってんよ」

そして小さな灯りは、パチンと眠りについた。


END



ひとつ前の話が長くなってしまったので今回はコンパクトに纏めようと思いました…!実際、SSってどのぐらいの長さまでの事を言うんでしょーか(^u^;)でもまぁ、ね、私が書いてるのどれでもそうかも知んないんですが、どうにもこうにも二人引っ付いてる状況からが短くね?みたいな…そこがメインなのにおかしくね?みたいな…って自分で思うんですけど!!どうにもならない!別にチャイチャイしてっとこが書いててハズいとかじゃなくて、そこずっと書いててもただダラダラ同じ雰囲気繰り返してるだけじゃね?…って思っちゃって…そこがまずいけないのか。そうか。そう、自分が読む時は全然むしろそれでオッケーいつまでもチャイチャイしてなよ!!なんですけどねぇ。mmm…;;