死神の勤務に日曜日など存在しないが、今日は調度護廷十三隊上層部の休日が集まっていたらしい。
しかし何故だろう、やたら騒ぐ子供の声が聞こえるのは。


いつでも、待って。 (携帯用)



一護は尸魂界に着いた早々、乱菊とやちるに拉致られていた。
「かくれんぼするんだよっ!いっちー!」
「悪いわねっ♪せっかく彼氏に会いに来たのに♪」
全く露ほども悪いと思っていないのは明らかで、一護は一応意味のない反論をしてみたけれどそれも本当に意味はなく。
「はぁあっ!?俺はそんなコトしに来てんじゃねーんだよっ!ってかカレシって…!!」
「無駄口叩いてねーでやるならさっさと始めろ!俺だって暇じゃねーんだ!」
「…冬獅郎…」
「日番谷隊長だ」
やちる以外に目線の低いガキがいると思ったら、それは銀髪の天才児。後ろにずらりと女性死神達が取り囲んでいるのを見て、一護はこれは絶対逆らえないと首を落とす。
「女性死神協会長が決めた本日のレクリエーションなのよvせいぜい頑張んなさい!」
落ち切った首を、乱菊に容赦無くはたかれた。

 の、に。

「コラやちる テメェっ!!かくれんぼなんじゃなかったのかよ!見つかったら逃げんな!!」
「あははははーーー!!やーだーよー!かくれんぼで鬼ごっこなんだもん!!」
「っざけんなーーー!!!」
もう何回目になったか分からない本日のレクリエーションは、その度ごとにやちるがルールを作るので付き合う方はたまらない。はずなのに、女性死神の面々は朝令暮改など日常茶飯事とでも言うように実にあっさり順応していて楽しそうだ。反対に日番谷はというと、大分前に一度キレてやちるにげんこつしていた。
明らかに男子に分が悪いレク。何が悪いって、今一護と日番谷は二人三脚で鬼をやらされている上に逃げた相手を追わなければならないという新ルールに支配されていることだ。

一護と日番谷の二人三脚。身長差は歴然。動けない。

もしや女性死神協会の今日の楽しみはコレだったんじゃないかと思う程、一護と日番谷はボロボロだった。
「こーっちーだよーーっ☆はーやーく!」
やちるの嬉々とした声は聞こえるが、姿は既に見えず。
「くっそーあのガキ!走るぞ冬獅郎!」
「隊長だって言ってんだ!走れるか馬鹿が!!」
大層ムカツク事実ではあるが、日番谷は一護の歩幅について行くだけでも一苦労二苦労なのだ。
「あーもーやってられっか!!」
「うおっ!?」
一護は叫んで、日番谷を抱えて走り出す。日番谷の自由な右足は、完全に宙に浮いていた。
ギャーギャーと言い合いながらテキトーに何度か角を曲がって塀を跳び越えたら、ようやく目的のピンク頭が目に入って、日番谷は額に青筋をもう一つ増やして怒鳴る。
「おい草鹿!!てめーいい加減にしろよ!俺はもう帰るからな!!今後一切付き会わねぇ!!!」
「俺もだ!!ホラもー戻るぜやちる!」
やちるの近くに一足飛びで飛び降りて、日番谷はやっと荷物のように抱えられていた状況から解放された。足を縛っていた紐を外しにかかりながら一護が超迷惑な鬼ごっこの(永遠の)終了を提示すると、やちるはきょろきょろしながら戻って来て

「ねーねー、ここってどこだろ?」
「「は??」」

男子二人の疑問の声は見事にハモった。
慌てて辺りを見回すが、頭に血が登り切った状態で走って来たのでどこをどうここまで来たのか覚えてなどいない。し、ましてや瀞霊廷なんかまだ数えてられるぐらいしか来た事の無い一護に見当が付く訳も無く、頼みの日番谷を見るとこちらも目を丸くして唖然としている。
「え、わ、分かんねーのか、冬獅郎・」
「知るかこんな所。俺は無駄にウロウロ歩き回ったりしねーんだよ」
名前の呼び捨てに反論する事も忘れたのかする気が起きないのかは本人しか知らない事だが、とにかく名前云々を言っている場合じゃないと天才児の思考回路は判断してくれたらしい。
こんな自分達の庭のような場所で、隊長が迷子だなんて面目丸潰れもいいところだ。しかし。
日番谷が誰か他の者の霊圧を探って道を辿ろうにも、鬼道で連絡を取ろうにも、どう言う訳か上手く行かなくて、只さえ積り積ったイライラに体力まで消耗させられた日番谷は
「…やってられるか!!俺はもう知らん!」
その場にごろんと、不貞寝してしまった。日番谷が退路探索を放り出してしまえば、残る二人に現状を好転させる手立ては無い。
一応辺りを見回してはみたが、一護とやちるでは闇雲に動き回れば余計面倒な事になる事は目に見えている。
どこをどう走ってきたのか一護にはさっぱり見当が付かなかった。塀を幾つか跳び越えて来たからか、もちろん瀞霊廷から出ているわけではないのだが、ここは各隊舎が林立するその中とは少し違う景色になっている事に気付く。整然と・とはいかないが見通しは悪くない程度に切り整えられた木々が何種類かと、足元にはコンクリートのようなあの敷石ではなく砂利と少しの下草が生えている。建物は見当たらないが世捨人の隠れ家のようだと思って、
そうだここは世から脱した者達が棲む世界だと思い至った。
「いっちーいっちー、どーする?あたしちょっと見てこよっか!」
この遭難の張本人、ピンクの小さいのが名案だろうと目を輝かせるのを一護はげんなりとした表情で返す。
「だーめだ。お前一人で動き回って更に迷子になったらどーすんだ」
ここでは自分が一番子供(年下)なのだけれど、この小さいのは放っておけばどんどん事態を悪化させると身に染みているから、たとえ目上を敬えと指摘されても絶対に譲れない。まぁ元から一護が尸魂界の連中に、敬意を払っている対象者など見受けられないが。
名案を一考もなく却下されたやちるは大げさにむくれて、砂利と下生えの上にちょこんと腰を下ろす。
「じゃああたしも寝るっ!剣ちゃんが見つけてくれるもん!」
大の字に転がるやちるに、いやそれこそ無理だろう・と溜息をつき、脳裏に浮かんだ剣八の姿に知らず背筋がぞっとした。
目を向ければ、一護の両脇に銀とピンクの子供が二人。やちるは元より不貞寝の日番谷もいつの間にか本気で眠りの中にいる。左に日番谷、右にやちる。これだけ派手な頭が三つも揃って全く役に立たねー・とちょっと見当外れな八つ当たりに近い事を考えながら、少し影が伸びて来たのに気付いて一護は死覇装の単衣を脱いで転がる日番谷に掛けてやる。小さいピンクは抱き上げて、膝に乗せた。
どことも分からない場所に腰を下ろして、何の連絡手段も持たないままいつ来るか知れない捜索を待つ。
まったく何て所で遭難してるんだと一護は尸魂界の空を見上げた。

今日は、って言うかいつもだけど、俺はあいつに会うために尸魂界(ココ)に来てるのに。
そのために学校の友人達には入学してたった半年で冷たくなったとか言われたりしてるのに。
俺は何をやってるんだか、ガキのお守をしに来てる訳じゃねェんだぞ・と 眠る子供達を見下ろして、そういえばすんなり会えた事はなかったな・と思い返す。
死神の勤務に、いや尸魂界に日曜日なんてないから、死神代行である前に現世で生きている学生である一護は一護の生活・現世のサイクルに則って動くしか出来ないからだ。
向こうは向こうで貴重なアフターや休日を使ってるんだと思うと自分が常に押し掛けているような気分になって、向こうの都合を推し量れない奴みたいで悪いなと頭をよぎる。が、相手が一護の来訪に難色を示した事は一度だって無いし、出来るだけ長く会っていられる時間を取ろうとアレコレ頑張っているのを知っているから(本人はそんな素振りは見せてないつもりだけれど)結局はお互い様の事なのだからとすぐに通り過ぎた。只でさえ短い時間を、更にお互い残務ややちる達に削られて、純粋に目的に当てられている時間はいくらも無い。

それでも、充分だった。
途絶える事は、ないのだから。

空は青く、雲はときどき流れては3人の上にほんの一瞬の日陰を作って、また何処へともなく流れて行く。
この雲は、何処まで行けるのだろうか。
現世からも、同じ雲は見えているのだろうか。
辺りに音はなく、眠りに近い静寂の中で一護はまたしばらく 空を見続けた。


遠くで人の声がする。少しずつはっきり聞こえて来た声に、一護ははっと神経を引き戻す。今度は誰かの声がはっきりと、隊長―――!というのが聴こえた。
「日番谷隊長――!草鹿副隊長――!一護――!!」
「こっちだ!」
声のする方へ呼び掛けて、目を凝らす。
「な…んだ…」
静寂を破った一護の声に、日番谷の意識が浮上したらしい。不明瞭な覚醒が、いつの間にか深い眠りに誘われていた事を日番谷に教えている。
「冬獅郎!やっと戻れるぜ」
皆が探し回っているらしい事を教えれば、日番谷も辺りに目を走らせる。
「!やっと戻れるか……」
起き上がった日番谷は自分の上に掛けられた死覇装を見止めて、それがふわりと日向の匂いをさせるのに少し眉をひそめながら溜息をついた。
さっきまでの夢とまどろみのなか、微かな風に感じた、同じ香り。完璧に子供扱いされてしまったと、本気で眠ってしまっていた事を恨めしく思った。
塀の向こうから、派手な頭が覗く。
気付いて一護が、向こうより先に相手を呼ぶ。
「恋次!」
一瞬遅れて恋次が姿を現した。
「一護!お前こんなトコに……っと、日番谷隊長に草鹿副隊長!」
「手間掛けさせたな、阿散井。…まったくコイツのせいでとんだかくれんぼだ」
眉間の皺を深くして日番谷はじとりとやちるを睨む。遭難の元凶は依然、軽い寝息を立てていた。

一護がやちるをおぶって戻る道すがら、三人が迷い込んだ場所は白哉の邸宅の一角だった事を明かされた。
素行の悪い下っ端の死神などからの防犯の為に、霊力を無効にさせる術を施しているという。入り組んだ道で、屋敷に忍び込んだ者が容易に脱出出来ないように、また内から外の仲間に連絡を取ることが出来ないように工夫されているそうだ。
「げ―――…白哉んちだったのかよ…どーりでお堅い仕掛けを巡らせてるわけだ」
一護と日番谷はうんざりしながら、漸く見慣れた通りに戻った。
「隊長――!」
乱菊が駆けて来て、しかめっ面の子供に飛び付くと、3人を探していた他の死神達に一様に
(あ、お母さんのお迎えだ)
と浮かんだのは言うまでもない。
日番谷が副隊長に絡みつかれながら帰舎して行くのと入れ違いに、やちるの補佐の一角が走って来る。一護の背中で爆睡している自隊の副隊長を見止めて、3人の直前で盛大に噴き出した。
「ぶはっ!何だオマエら、すげー派手な親子みてーだな!?オイ!!」
ピンクとオレンジと赤。目がチカチカすんぜ、日番谷隊長も一緒だったんだろ!?ギャハハハ!!・と周りに響き渡るほどの大声で爆笑する。
「一角さん!ちょっ・声デカイっスよ!」
「んなこと言ってて冬獅郎にボコられても知んねーぞ」
自分は隊長格を呼び捨てして改めない事は棚上げだ。
近くの隊舎から、騒ぎを聞き付けた者達が4人を見下ろしに来ている。それにちらりと目をやってから一角はニヤリと口を歪めて
「へぇ?てめーら否定はしねーのか、『親子』」
「「!!」」
「な・何言ってんスか一角さん!」
「何言ってんだよ一角!」
一角の爆笑に気が逸れていた二人は自分達の迂闊さに今更気付いたけれど、既に4人のやりとりを見ていた者達の喝采が響いていてもう何を反論しても無駄だと肩を落とすしかなかった。

やちるを一角に押し付けて、囃し立てられながら一護と恋次は急いで十一番隊舎を後にする。
ようやく、今日の目的に辿り着けた。
けれどもう大分時間が経ってしまったのが事実で。
六番隊舎へと向かいながら、どちらともなく溜息をついてしまった。
「何か今日は……散々だったな…」
「そりゃ俺のセリフだっつーんだ。テメーが草鹿副隊長達といるっつーから行ってみりゃ、日番谷隊長と三人で行方不明って言われてよー」
「悪ィな;;あいつどーにかしてくれって剣八に言っといてくれよ」
「馬鹿かテメー、何があってもあの副隊長が大人しくなるわけねーだろ」
テメーも絶対また付き合わされんだよ・と恋次は一護の肩を叩く。
僅かに近付いた距離、一護は素早く恋次の背に腕を回して
「テメーと付き合うために、俺はココまで来てんだぜ?」
恋次の顔を覗き込んで、顔を寄せて囁く。
「!何やって・何言ってんだテメっ……ここどこだと…」
「大勢で探してくれてたんだろ?よく見つけたなァ恋次」
一護の言葉が指しているのは先程の朽木家への遭難の事で。外からは普通に霊圧が探れるのに、日番谷を探していただろう乱菊や雛森よりも先に居場所を突き止めた事を示唆してやると、
「馬ぁー鹿野郎、テメーの霊圧はそこら中にダダ漏れなんだよ」
とコントロールがなってないと馬鹿にされたけれど、
一護は更に恋次の耳元に口を寄せて
「それって、俺を頼りに探してたってコトだよな」
そう囁けばそれはもう駄目押しで。
真っ赤になった恋次は背から肩に回っていた一護の腕を振り解くと、それを引っ掴んでもう姿が見えてきた六番隊舎目指して走り切った。
自室まで駆け抜けて一護と共に転がり込む。
部屋に放り込まれた一護は強かに畳に倒されて、顔をしかめたけれど。
「痛ってぇ!何すんだよ急にっ…」
睨む目も咎める声も気にすることなく更に一護の肩を押さえ付け、
「悪ィかよ……っ何のために俺が必死で仕事片付けてると思ってんだ…!」
「恋っ・次…」
その顔を見られまいとするかのように一護の胸に額を落とす。
「テメーだけ・じゃ・ねーんだ、……………………………分かってんのか…っ」
強く押し付けられる額と掌。
一護は中々上がらない腕を押し上げて、恋次をその頭だけでなく身体ごとぎゅっと抱き締めた。
押し付けられる、頬も胸も。
死覇装を透して伝わる、温かさが痛いほど。
「…ありがとな・恋次」
「…何だよ、その礼は…」
「お前が俺を見つけてくれた礼だ」
「………ぉう」
「それから、俺を待っててくれてる事も」
「…ぅ、うるせーなイチイチ…」

いつまで待っていてくれるのかなんてわからない。生きる速度の違う二人にとってそれは、たとえ自分の心を相手の想いを解っていてもどうしてもどこかに引っ掛かって、無くなってくれない小さな棘。
けれど無くなってくれないその棘を、傷が付かないようにくるむことは出来る。

せめて・今日は、と。

「恋次」
「ぁん?」
「好きだ」
「!……ぉぅ…」

一日一日重ね合わせた想いに、小さな棘は段々だんだん埋められて。

「一護」
「ん?…!」
伝わる温かさに食みあう温もりに、潰されてしまった時間は融解する。
「待ってる……っ」
「…っん?」

任務とか、草鹿副隊長とか、現世の生活とか、いろいろあるけど

「全部…問題じゃ・ねぇ…っ…」

早く『来い』とは言えないけど。

「……ああ。……」

せめて・・。今は。 。

「好きだ………」

次を信じて、今が全て。


END



な…長っ…!!f(-□-;)すいません一護と一緒の日番谷が書きたいと思ったらこんな長く!危うく恋次出すタイミング忘れるところだったのはナイショです☆(←なら書くな;;)長いのはそれだけじゃないです。一護と恋次が揃うまでも今までで一番長い。そしてチャイチャイしてる時間てか、ひとつの話全体における一護と恋次が一緒にいる割合が一番少ないデスよこれ…!!(@◇@;)どうなんこれ!?その原因はですね…ラブな会話とかをですね…続かなくなってきたら終わりにするって手法使うのやめたいと思います…(←バラすなて;;)