チョ コレー ト (携帯用)
「なあ、お前が良く食ってるソレ、何?」
いつものように義骸にも入らず着物姿で現れた恋次が、一護の指先に摘まれた茶とも黒とも見れる平べったい長方形を指差した。
「これ?チョコレートだけど。食った事なかったっけ?」
あれ・そうだっけ・と一護が少し考えていると、
「おう。……何か…う・うまいのか??」
恋次は思いっきり怪訝な表情(カオ)をしている。
あー・真っ黒な板が食いモンには見えねーのか
と 小さな板チョコのカケラに1つに真剣な眼差しを注ぐ恋次を 少し可愛く思う。
「食ってみる?」
摘んだままの1カケを持ち上げてやると、
「え!?」
と どう聞いても警戒心の方が勝っている声が返って来て、一護は思わず苦笑した。
「んな緊張する事ねーよ!甘いモン食える奴なら大丈夫だって!」
「そ…そうか?じゃ…」
甘いものと聞いて好奇心が勝ってきた恋次はそろそろと右手を差し出し、手のひらにその“茶とも黒ともつかない薄べったい甘いモノ”を落として貰う。口に近付けてみると、甘いよりは苦いと思える匂いが鼻腔を通る。
その香りに
騙されてるんじゃないのか・
とうかがう視線をなげれば、恋次の様子をじっと窺っていた一護と目が合った。
恋次の探る目に気付いて、一護は更に可笑しげに笑って、
「しょーがねーな。ちっと貸してみ」
そう言って恋次の手のひらから渡したばかりのチョコレートを摘み上げる。
恋次の目がそれを追うのを見ながら、一護はチョコレートを自分の方へ運び、口に入れ、咀嚼した。
まるで、
ホラ、食えんだろ
とでも言いたげな行動に、馬鹿にされた気がして、恋次は今度こそ食べてやると床に置かれた板チョコに手を伸ばす。
すると、チョコレートを全て嚥下した一護が、口を開いた。
「ホラ、こんな味」
前傾しかけた体は思ったより傾いてなくて、口内には甘くて少しほろ苦いお菓子の味。
ふわーりと広がる。
「甘ぇ…」
「だろ?うまいだろ?」
「んー・ぅめェな……ってゆーかてめぇ今何しやがった!!」
素直に感想を述べてから、恋次は初めての甘さに気を逸らされて、一瞬も二瞬も反応が遅れてしまった事に気付く。いきなり至近距離で怒鳴られた一護は、むすっとしながらくちびるをひと舐め、
「なんだよ、てめーが大丈夫だっつってんのに警戒してっから味見させてやったんだろー」
そう返すから、確かにそれはそうで、恋次は次の言葉を失う。
「それにしたって…」
「いーじゃねーか。これでもぅ食えるだろ?」
そう楽しげに笑って、一護は食べかけのチョコレートを差し出す。
目の前に浮かぶ、茶色で黒い薄くて甘くちょっと苦い現世の菓子。
恋次はしばらく見つめたあと、ふいっと目線をそらした。
「俺はいらねー」
「え〜?何でだよ。持ってけばいーじゃん、うまいって言ったじゃねーか」
「味、覚えたからもういい」
「はぁ〜?」
チョコレートを差し出したままの一護に、横を向いたままの恋次。
「味ってのは覚えたから次また欲しくなるんじゃねーか。持ってけって。向こうで食えよ」
次に現世来るときまで大事に食えよー・なんて言って、一護は笑う。
恋次の手を取って、少し割って欠けたそれを銀紙ごと渡す。
手のひらに乗せられた、さっきのカケラより2、3周りぐらい大きな薄いチョコレート。
いらねぇっつってんのに、とじっと見てたら、あんまあっためると溶けてどーしょーもなくなるからと、笑われた。
「一護」
夜、何かが入り込んだような気配を感じて一護が目を開けると、今まで仕事だったのか幾分着崩れた死覇装にくたびれた表情(カオ)の恋次が、そこにいた。
電気を消してカーテンも閉めた部屋の中は真っ暗で、とっさに時計も見れなかったけれど、カーテンから漏れる光もないからきっと本当に早い時間なのだろう。早いと言うより、遅い時間のほうが正しいのかもしれない。
「何、オマエこんな時間…何時だ今」
ごそごそとベッドから起きて、ケータイを探る。そんな一護の行動を待たずに恋次は重そうに口を開いた。
「一護、昨日貰ったやつだけど」
「ん?あぁチョコ?何だよもう食っちまったのか?」
大事に食えって言っただろーなんだよ貰いに来たのかよー・と茶化すと、
「そーじゃねーよ。持って歩いてたら溶けちまうかと思って机に置いといたら、乱菊さん達に食われちまってた……」
菓子に対する女の嗅覚と勇気はすごい、自分はあんなに疑心暗鬼だったのに。珍しい現世の菓子を、取られたことに腹は立つけど、まさか男が女達の前で食べ物の文句は言えない・と恋次の表情がありありと語っていて、一護は布団に撃沈して笑い声をこらえる。
「あーおっかしー!とられてんなよ!俺んトコだって買いに行かなきゃねーぞ」
今日は日曜日だから 睡眠時間は後で二度寝すれば良い・と一護はコンビニへ向かうべく立ち上がる。
「いらねーとか言ってたくせに。なくなったらやっぱ味、恋しくなったんだろー」
どーだ?と笑うと恋次は不満いっぱいの顔のまま、
「…だからいらねーって言ったんだ。味、覚えたら、欲しくなるから………。
チョコレートの・覚えた、 お前の・ くちび……るっ」
どうしたんだろうと思うほど細切れに言われた台詞は、ひと言ごとに小さくなっていってるけれど。
しんとした部屋では、聞き逃す言葉はあるハズもなくて。一護はドアに向かわせかけていた足を戻した。
「何かすっげ、メルヘンなセリフ言われてる気がすんだけど」
「める…??」
「可愛いって言ってんだよ」
チョコレートを食べると、一護のキスを思い出すからなんて。
その外見で、ギャップにも程がある。
それだからまた可愛いなんて、思ってる自分にも可笑しくなって、一護は恋次を引き寄せた。
「じゃ、しっかり味わってけ。いつでも欲しくなるように」
そう言って、恋次のくちびるを自分ので包む。
味蕾には何の味も感じないはずだけど、恋次はあの、甘くてちょっと苦い匂いが、口いっぱいに広がっていくような気がした。
「食べに来いよ、チョコは現世(こっち)に。また取られちゃたまんねーだろ」
おまえだけ・味わえよ。
そう一護は笑って、もう一度軽い音を立ててくちづけた。
END
昼休みに粒チョコ食べながら何かSSのネタはないかと頭をひねってて考えついたもの…ネタって気付けば色んなとこに芽を出してるもんですね。(あっ、ネタ⇒タネと掛けたわけじゃないですよ!←言わなきゃ分かんないのに…)うまく育てられるかは別としてね!
ネタ拾いも文章も絵もまだまだリハビリ中です。……精進しますorz
ほんと、なんだって描くより破ることの方が容易いです…!